俗に言う「免疫力のバランス」
「免疫力のバランスが乱れると健康状態に影響を及ぼす」という表現が、健康本や健康番組などで当たり前のように使われています。
なんとなく言いたいことが分かるような、しかしどういう意味か分からないような微妙な表現ではないでしょうか。
事実、「免疫力」という医学用語は存在せず、したがって「免疫力のバランス」という言葉には定義がありません。
そこで「免疫力のバランス」とはどういう意味なのか?について考察を続けていますが、
おそらく一番有力な説。といいますか、「一番こういう意味で使用されているだろうな」と思えるのが
「Th1」と「Th2」のバランスです。
Th1/Th2 バランス説
免疫細胞(白血球)には様々な種類があります。
免疫細胞は異物(非自己)と認識した物を排除しようとする働きがあります。
そのおかげで我々は風邪や病気から身を守っているわけですが。
ここでいう異物(非自己)とは、細菌やウイルスといった感染症をもたらすような病原体以外にも、ダニやほこりも含まれるし、なにも外から侵入してくるものばかりではなく、がん細胞と化した元々は正常だった自分の細胞をも含まれます。
そして、異物によって対応する免疫細胞がそれぞれ違ってきます。
しかし全ての異物に関与している免疫細胞がありまして、それが「ヘルパーT細胞」と呼ばれるリンパ球です。
ヘルパーT細胞は、最前線で戦っている免疫細胞たちから情報を受け取り、各免疫細胞に指令を出す、いわば免疫の司令官のような役割りを担っています。
各免疫細胞が秩序良く、また効率的な働きができるかどうかはヘルパーT細胞次第といったところでしょうか。
なので、免疫力のカギを握っているのはこのヘルパーT細胞だとも言えるわけです。
で、具体的にこのヘルパーT細胞がどのような働きをしているかといえば、
体内に侵入した敵(異物と判断した物)に応じた抗体を作って敵を無力化すること。
実際に抗体を作るのはB細胞(これもリンパ球)ですが、
例えば毒素を撒き散らしているある細菌Aが侵入した場合、この細菌Aに対する情報を元にヘルパーT細胞からB細胞へ指令が来て、細菌A専用の抗体Aを作成します。
この抗体Aが細菌Aと結合すると細菌Aは毒素が出せなくなり無力化します。逮捕されたような感じですね。
それだけではありません。細菌に抗体が結合すると、好中球がその細菌をむしょうに食べたくなるという効果もあります(オプソニン化)
ちなみにこの抗体Aは細菌A専用の抗体なので細菌Aにしか作用しません。
しかし敵がウイルスだと状況が変わってきます。
細菌は感染した生物から栄養さえ貰えれば自力で増殖することができますが、ウイルスは細菌と違って自分で増殖することができません。ウイルスは細胞を持たないのです。
なので感染した生物の細胞の中に侵入して寄生し、その遺伝子を書き換えて自分を複製しながら増殖をしていきます。
複製されたウイルスは別の細胞へ侵入し、そこでまた複製することで感染していきます。
ウイルスに対する抗体を作り好中球に食べてもらおうにも、ウイルスにはその方法が使えません。
抗体は細胞の中には入れないからです。
抗体は細胞の外で悪さをしている細菌には結合できても、細胞の中で悪さをしているウイルスには役に立ちません。
血管や細胞間をパトロールしている好中球たちも抗体と結合していないウイルスには反応してくれません。
さて、こんな時に活躍するのが「細胞障害性T細胞」と呼ばれるリンパ球です。
細胞障害性T細胞はかつて「キラーT細胞」と呼ばれていたT細胞で、同じT細胞でもヘルパーT細胞のような司令官と違い、直接現場にてウイルスと戦います。
どのようにしてウイルスを撃退するかといえば、なんてことはない。感染した細胞ごと撃退してしまうんですね。
感染した細胞からウイルスを取り除くのではなく、感染した細胞はもう敵とみなしてしまうというわけです。
ゾンビ映画と同じですよ。一度ゾンビ化してしまったらもう人間には戻れないから殺すしかないみたいな・・・
もしくはあれだ。火事になった家の火を消すのではなく、家ごと破壊して周りに火が回らないようにしてしまう江戸の火消し戦法みたいなイメージかな。
とにかく細胞を攻撃するから「細胞障害性T細胞」とは、もう字の如くですね。
そして、この細胞障害性T細胞はむやみやたらに細胞を傷つけるわけではありません。
ヘルパーT細胞からそのウイルスに関する情報、つまり指名手配書を受け取って、このウイルスが立て籠もっている細胞を探して攻撃するという仕組みです。
・細胞の外で悪さをするのが細菌
・細胞の中で悪さをするのがウイルス
と覚える分かりやすいかもしれません(例外はあります)
ここでもう一度、ヘルパーT細胞の話に戻ります。
ヘルパーT細胞は免疫細胞の司令官だと言いましたが、実はヘルパーT細胞にも種類がありまして、
抗体をB細胞に作成するよう指令を出すのは1型ヘルパーT細胞(Th1)と2型ヘルパーT細胞(Th2)のバランスによって決まります。
やっと名前が出てきたよ「Th1」と「Th2」
さしずめTh1は第1軍の司令官、Th2は第2軍の司令官といったところでしょうか。
そして細胞障害性T細胞に指令を出すのはTh1。
なのでTh1が過剰に働くと自分の細胞を傷つけすぎてしまうことになります。
これが「自己免疫疾患」と呼ばれる症状で、リウマチやエリテマトーデス、多発性硬化症など多岐に渡る原因となります。
一方、Th2には好酸球の働きを促進させる働きがあります。
好酸球はダニやほこり、花粉などアレルギーの原因となる物質の排除にあたる顆粒球の一種です。
好中球は細菌に対して。好酸球はアレルギー物質に対して。
Th2の働きが過剰になるとアトピー性皮膚炎や気管支ぜんそく、あるいは花粉症といったアレルギー反応を示します。
このTh1とTh2はお互いにバランスを取り合っていると考えられています。
そのため、どちらかの働きが優勢になりバランスが乱れると、Th1に傾けば自己免疫疾患、Th2に傾けばアレルギー疾患になるというのが「Th1/Th2バランス説」です。
しかし、なぜバランスが乱れるんでしょうかね。そのへんが気になるところではないでしょうか。
(SHIBA)
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